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東京高等裁判所 昭和49年(ネ)2847号 判決

控訴人 金子重平

右訴訟代理人弁護士 高田新太郎

控訴人 野村十郎

右訴訟代理人弁護士 横川幸夫

被控訴人 萬屋建設株式会社

右代表者代表取締役 星野光

右訴訟代理人弁護士 渡辺武

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

≪省略≫

理由

一、被控訴人が、控訴人金子所有の群馬県利根郡昭和村大字糸井字中道五四五五番の二三六の土地について、昭和三六年一一月一日、控訴人金子との間でこれを買受ける旨の売買契約を締結し、同年一二月二三日、所有権移転登記を得たことは、当事者間に争いがない。また、控訴人金子が、本件土地につき自己の所有であるが未登記であるとして原判決別紙登記目録(一)、(二)記載のとおりの表示および保存の各登記を経たことは、≪証拠省略≫によってこれを認めることができる。

二、そこで、本件土地が五四五五番の二三六の土地の一部であるか否かについて検討する。

1、まず、≪証拠省略≫によれば、五四五五番の二三六の土地は、昭和一二年五月二八日に宮内省のために保存登記がなされた土地であって、同年一月二六日、宮内省から訴外糸井養林株式会社に下付され(所有権移転登記は昭和一四年九月二三日)、その後、昭和一四年一一月二二日、訴外大沢てるが、さらに昭和一八年二月二七日、控訴人金子がそれぞれこれを買いうけて(各買受当日所有権移転登記を経由)順次所有権が移転したものであること、右土地の公簿面積は、保存登記がなされた当初は、一一万四三〇二平方メートル(一一町五反四畝一七歩)であったが、昭和二五年および昭和三六年に分割がなされたため、以後は九万六〇八九平方メートル(九町七反一八歩)となっていること、一方、昭和四一年九月二九日、控訴人金子が前橋地方法務局沼田支局長あてに本件土地についての調査依頼書を提出したのが契機となり、種々調査した結果、同支局長は、本件土地は五四五五番の二三六の土地には含まれず、これと同様、宮内省から訴外糸井養林に下付され、同大沢を経て控訴人金子に所有権が移転した無番地の土地であると認定して、昭和四二年五月一一日、控訴人金子のために前記認定のとおりの表示および保存の各登記手続をなしたものであって、面積は実測にもとづき一万四四四五平方メートルと確定されたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

そして、≪証拠省略≫によると、本件土地は、宮内省が下付する以前から存した道路(昭和二六年五月に糸之瀬村(現在昭和村)によって村道と認定された)を挾んで乙地と対置しこれとは別区画をなしていたもので、控訴人金子が前記表示および保存の各登記を経た時点では、沼田支局備付の公図上、乙地には五四五五番の二三六の地番が付されていたものの、本件土地には何らの地番の記載がなく、また、乙地との関連を示すような特別の符号も表示されていなかったこと、五四五五番の二三六の土地については、前記のとおり、昭和二五年と昭和三六年に分割の登記がなされているが、その際の申請書添付の図面にも本件土地の記載はなかったこと、本件土地の昭和四一年度における固定資産税は、五四五五番の二三六の所有名義人たる被控訴人ではなく控訴人金子がこれを納入していたことが認められる。

2、しかしながら、≪証拠省略≫を総合すると、本件土地が下付された際の分筆の状況、土地の形状および面積等に関して、つぎの事実を認めることができる。すなわち、(イ)下付の事務を担当したのは当時の帝室林野局であるが、同林野局は、事務処理の便宜上、本件土地を含む赤城山御料地について整理番号を付しており、これによると、本件土地の整理番号は四八六、乙地のそれは四九二であった。(ロ)整理番号四八六と四九二の土地は、下付の際の図面上でも一区画の土地ではなく道路を挾んで対置していて接続はしていなかったが、帝室林野局は、沼田税務署に対し、両土地を合わせて利根郡糸之瀬村大字糸井字中道五六一一番、面積一一万四三〇二平方メートル(一一町五反四畝一七歩)なる一筆の土地として分筆登録するよう嘱託するとともに、ほか数筆の土地と合わせてこれを訴外糸井養林に下付する旨の決定をした。(ハ)右嘱託をうけた沼田税務署は、右五六一一番の地番を五四五五番の二三六と変更したが、その他については嘱託どおりに分筆登録をしたため、整理番号四八六と四九二の土地は、道路を挾んで対置したままの形で五四五五番の二三六なる一個の地番をもって表示されることになった。(ニ)一方、宮内省は、右分筆後、税務署が使用した新地番を付した御料地分筆図なるものを作成したが、これによると、乙地に五四五五番の二三六の地番が記載されているのみで本件土地にはとくに地番の記載はないものの、両者の間にある道路をまたいでの記号(以下めがね印という)が表示されており、その一体性があきらかにされていた。ここにめがね印というのは、一筆の土地が道路や水路などで二分される場合に、別地番を付さないで一体性を有することを示すために、土地に関する作図上の慣行として用いられていたものである。(ホ)整理番号四八六と四九二の土地は、形状的にみて、沼田支局備付の公図に表示された本件土地および乙地と、さらに御料地分筆図上めがね印で結ばれた両土地とほぼ完全に重なりあうだけでなく、面積の点からみても、整理番号四八六の土地は一万三〇三五平方メートル(一町三反一畝二〇歩)、四九二の土地は一〇万一二六七平方メートル(一〇町二反二畝二七歩)であって、これを合計すると、沼田税務署が五四五五番の二三六の地番をもって分筆登録した当初の面積である一一万四三〇二平方メートル(一一町五反四畝一七歩)と一致する。

以上の認定を左右するに足りる証拠はなく、右の事実によれば、本件土地は、乙地とともに一筆の土地を構成するものとして帝室林野局から沼田税務署に分筆の嘱託がなされ、かつ、そのとおりに分筆登録がなされたうえ、宮内省から訴外糸井養林に下付されたものであって、無番地の土地ではなく、五四五五番の二三六の地番で表示された土地の範囲に含まれることがあきらかである。

なお、沼田支局備付の公図には本件土地と乙地との関連を示す何らの表示がなく、また、昭和四一年度における本件土地の固定資産税は控訴人金子が納入していたことは、前記認定のとおりであり、さらに、≪証拠省略≫によれば、現在の登記実務のうえでは、一筆の土地が道路や水路などによって二分される場合には、これを二筆の土地に分割して別地番を付するのが通常であることが認められるが、このような事情があるからといって上記認定の妨げとなるものではないし、二区画に分れた土地を一筆の土地として一個の地番で表示することが、一物一権主義ないし所有権のおよぶ土地の範囲に関する民法の建前に反するものということもできない。

三、つぎに、本件土地が、控訴人金子と被控訴人との間の売買契約の対象に含まれていたか否かについて検討する。≪証拠省略≫によれば、控訴人金子は、銀行に対する借財の返済にせまられてその所有地を売却することになり、昭和三六年一一月一日、被控訴人との間で五四五五番の二三六ほか二筆の土地について売買契約を締結したこと、その際、売買の対象については、とくに測量を行うことも現地にのぞんで境界をきめることもなく、また、公図上で範囲をあきらかにすることもしないで、もっぱら登記簿の記載にしたがってこれを特定したことが認められ、この認定に反する証拠はない。そして、右認定の事実によれば、売買の対象となったのは、登記簿上、群馬県利根郡昭和村大字糸井字中道五四五五番の二三六として客観的に表示された土地であって、本件の全証拠によっても、右土地の一部が売買の対象から除外されたことを認めるに足りる資料はないから、本件土地は、その存在が当事者双方によって具体的に認識されていたか否かを問わず、売買の対象に含まれ、前示売買契約によってその所有権は控訴人金子から被控訴人に移転したものというべきである。

これに対し、≪証拠省略≫中には、本件土地は売買の対象には含まれていない旨の供述をした部分があるが、いずれも、本件土地が無番地の土地であって五四五五番の二三六の土地には含まれないことを前提とするものであって採用に値しないし、前述のように、控訴人金子が売買契約後の昭和四一年度分について本件土地の固定資産税を納入していることは、上記認定の事実と対比すれば、むしろ、課税上の誤りというべきもので、本件土地の所有権が被控訴人に移転したことを認定するうえでの支障になるものではない。

そして、昭和三六年一二月二三日、五四五五番の二三六の土地について、控訴人金子から被控訴人に対し、同年一一月一日売買を原因とする所有権移転登記がなされたことは、前判示のとおりであるから、被控訴人の本件土地につき有する所有権は対抗力があるものというべきである。

四、そこで、進んで控訴人金子がした表示および保存の各登記ならびに控訴人野村が得た所有権移転登記の効力についてみるに、控訴人金子が、本件土地につき、原判決別紙登記目録(一)、(二)記載のとおりの表示および保存の各登記をしたことは前判示のとおりであり、控訴人野村が、昭和四三年四月二四日、控訴人金子との間の同年三月一五日売買を原因とする同目録(三)記載のとおりの所有権移転登記を経由していることは当事者間に争いがない。しかして、右各登記は、いずれも、本件土地が無番地の土地であることを前提にしてなされたものであるが、これまで詳述したように、本件土地は五四五五番の二三六の一部であってその所有権は売買によって控訴人金子から被控訴人に移転し、かつ、その旨の移転登記も了していたものであり、しかも、控訴人らの右登記は、いずれも、被控訴人の登記よりも後になされたことがあきらかであるから、控訴人金子としては、本件土地につき何らの権利をも有しなくなったにもかかわらず、さらに表示および保存の各登記をしこれを控訴人野村に移転したことになり、それゆえ、右表示登記は二重登記として、保存登記は実体関係に符合しないものとして、いずれも無効なものであって抹消をまぬかれないものというべく、このことは、控訴人金子の右登記にもとづいてなされた控訴人野村の所有権移転登記についても同様であるといわなければならない。

五、そうとすれば、被控訴人の控訴人らに対する原判決別紙登記目録(一)ないし(三)の各登記の抹消請求を認容した原判決は相当であって、本件控訴はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 吉岡進 裁判官 兼子徹夫 太田豊)

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